スタッフ数にシーリング枠を設定する施設運営とは?

 昨今、スタッフの人数にシーリング枠を設ける介護施設が目立って来ました。シーリングとは天井のこと、上限を設定することです。「その人数までは配置してよいが超えてはいけない。その枠のなかでやりくりしなさい。」というものです。

それには以下のような背景があると思われます。

  • 持続経営のためには、採算を厳しく見ていかなければならなくなった。経営者が、人件費を圧縮する必要性を感じている。

  • 現場はいつも人が足りないという傾向がある。現場が「自発的にこの配置で充分です」と言うことはないと分かって来た。

  • 同業他社との競争や差別化の上で、付加価値サービスを提供して行きたいと思うが、そうするには採算を考慮しつつ適正配置をしなければならないと感じている。

 シーリング枠は、スタッフの所要数が、要介護者の人数によって決まって来ることから、1人の介護スタッフで何人の要介護者をみられるかを表現したものが多いようです。「1:1.5」の配置と言えば、1人のスタッフで1.5人の要介護者をみることになります。要介護者が全体で50人いれば、40人のスタッフまでは配置してもよいというものです。

 これらのスタッフ数は、一般的に8時間換算の在籍人数を指すことが多いようです。その場合、現場では、実際に1日当り何人が配置可能なのかと言うことになりますが、出勤率(例えば、出勤率=8時間換算年間出勤日数/365日で求められます)をシーリング枠となる人数に掛けると求められるはずです。仮に65%とすれば、40人のシーリング枠では、日当り26人のスタッフを配置してもよいということになります。

 また、施設には介護スタッフのみならず、管理職も、ケアマネのような間接業務を行うスタッフもいます。だから、それらを含むすべての人数なのか、どこまでを含むものなのかを明らかにしなければならないと思います。

 経営側者は、このシーリング枠はどのように決めているのでしょう。利益のでるモデル施設を持ち、仕事の仕方や基準を持っていれば、その施設をベンチマークとして決めることも可能でしょう。しかし、なかなかそうは行かないようです。経営者が一番、簡単にやる方法は、目標利益から逆算して、このシーリング枠となるスタッフ人数を決めることになります。

 一方の介護の現場につくスタッフの立場から見れば、介助するサービス量は、その施設の要介護度別利用者の分布状況によって変わって来ますし、施設の構造上の違いから来るサービス提供の効率・非効率も配慮して欲しいという要望もあることかと思います。このような議論になると、いつまで経ってもシーリング枠は決まりません。まずは、決めて、P-D-C-Aを回すことが大事だと思います。


どのように実現するか?

 さて、シーリング枠を設けた施設側の立場では、この実現計画をどのように立案するのでしょうか?現実には、この方法論を持っている施設は少なく、具体策に落とし込める施設は極めて少ないのではないかと思います。

 昨年、介護現場の「残業ゼロ」を実現した弊社のお客様の介護付有料老人ホーム 大阪〈ゆうゆうの里〉を紹介いたしました。
http://www.itkaigomanagement.com/info/media151218
ここではどのようなアプローチをしているのでしょうか。

 個別ケアを標榜するこの施設では、施設長以下、大切なのは入居者にお約束したケアプランであり、それを実施する現場であるという考え方が根付いています。紹介にあたり、施設長からは「残業ゼロ」※ⅰについて誤解のないように説明して欲しいとの要望をいただいています。世の中には「サービス残業」を放置して「残業ゼロ」をうたう施設も有るようですが、決してそういうことでは有りません。この取り組みは、私どもが標榜する、スタッフ・入居者・経営者の「三方良し」を目指すものです。実現の範囲については文末脚注をご参照下さい。

ともあれ、そこで実施したことは、

 1. まずは、入居者お一人おひとりにお約束したケアプラン上のサービスを、今ある勤務区分(ライン)で、ムリ・ムダなくこなせるようなることを目標とした。
 2. この目標達成のため、現状の勤務区分(ライン)の日課表を精査、整流化し、残業ゼロで且つ、スタッフにもムリがない計画として実践できるようにした。
 3. その計画に確信を持つことができ結果、これが、ケアプランを実施する最適所要人員として自信をもって定めることができた。つまり、お客様である入居者に、お約束したサービスを実施する上で、絶対省略できない人数が定まった。

現在は、ここまで来ています。これからトータルのシーリング枠に入れるためには、どうしたらよいでしょう。既に、以下のようなアプローチが見えてきています。

 4. 施設トータルのシーリング枠となる人数から、上記のケアプランを実施する最適所要人数を引いた人数を予算人数として定める。
 5. この予算人数で、残りの業務(間接業務など)ができるように、業務合理化活動を展開する。

 間接業務中心としたこれらの合理化については、予算人数で業務を消化するにはどうするか、という視点が大事だと思います。お客様に約束したサービスとは異なり、仕事そのものを無くすことも可能です。間接業務については、介護業界特有の話ではなく、様々な企業で行われて来た実積がありますし、アプローチの仕方もあります。

 「人が足りる、足りない」という問題に決着をつけるには、団子状態で放置していては何時まで経っても解決はしません。どの仕事で足りないのか、どこで足りないのか、何時足りないのか、・・・と言う具体的な分析作業が必要になってきます。このお客様(施設)は、現場の残業ゼロを実現したことで、自信を持って次の作業に進めると思います。


※ⅰ「残業ゼロ」の実現の範囲は、勤務区分(ライン)に計画された業務であり、中でも、ケアプランに記載され入居者が定常的に受けるサービスに関わる仕事が対象となっている。それ以外に予定外の病院付き添いが生じた緊急対応や委員会活動などの間接業務においては、現時点でまだ残業が生じている。

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